糖尿病
糖尿病とは
糖尿病は、血糖値(血液中のブドウ糖の濃度)が慢性的に高い状態が続く病気です。通常、食事をすると血糖値が上がり、それに応じて膵臓からインスリンというホルモンが分泌され、血糖値を下げる働きをします。しかし、糖尿病になると、このインスリンが正常に働かなくなり、血糖値が高い状態が続きます。
糖尿病の種類
糖尿病には主に自己免疫による「1型糖尿病」と生活習慣が主な原因となる「2型糖尿病」があります。
1.1型糖尿病
- 特徴: インスリンを分泌する膵臓の細胞が破壊されることで、体内のインスリンがほぼ作られなくなります。
- 発症: 小児や若年成人に多く、急激に発症することが多いです。
- 原因: 主に自己免疫によるもので、遺伝的要因と環境要因が影響するとされています。
- 治療方法: インスリンがほとんど分泌されないため、インスリン注射が必須です。
2.2型糖尿病
- 特徴: インスリンの効き目が悪くなる「インスリン抵抗性」とインスリン分泌が不足する「インスリン分泌障害」が原因となり、血糖が高い状態が続きます。
- 発症: 中高年に多いですが、生活習慣の変化により若年層にも増えています。
- 原因: 遺伝的要因に加え、肥満、運動不足、ストレスなどの生活習慣が大きな影響を及ぼします。
- 治療方法: 生活習慣の改善、経口血糖降下薬、インスリン療法(必要な場合)などがあります。
当院では2型糖尿病の治療を行っています。1型糖尿病や、2型でもインスリン治療が必要な場合には専門医に紹介します。
主な症状
初期段階では症状が出にくいことが多いですが、次のような症状が見られることがあります。
- 多飲: のどの渇きを強く感じるため、水をたくさん飲むようになります。
- 多尿: 尿量が増え、頻尿になります。
- 体重減少: 食事量が変わらないのに体重が減少することがあります。
- 疲れやすさや倦怠感: 常に疲れを感じたり、だるさが続くことがあります。
- 視力の低下: 高血糖が続くと視力がぼやけることがあります。
診断
糖尿病は、以下3つの値を基準に診断します。いずれか1つでも基準を超える場合、糖尿病と診断されます。
- 血糖値: 空腹時血糖値が126 mg/dL以上、または随時血糖値が200 mg/dL以上。
- ヘモグロビンA1c (HbA1c): HbA1cが6.5%以上であること。
- 糖負荷試験: 75gのブドウ糖を摂取後、2時間後の血糖値が200 mg/dL以上の場合。
糖尿病の診断基準の値まではいかないものの、血糖値が高めで、将来的に糖尿病に進行するリスクが高い場合は「境界型」または「糖尿病予備群」と呼ばれます。この段階で早期に生活習慣を見直すことが推奨されます。基準は以下の値です。
- 空腹時血糖値:110~125 mg/dL
- 75g OGTT 2時間値:140~199 mg/dL
- HbA1c:5.7~6.4%
管理と予防
糖尿病は完治することが難しいため、生活習慣の改善や薬物療法により、血糖値を正常範囲に保つ管理が重要です。主な治療・管理方法としては次のようなものがあります。
- 食事療法: 栄養バランスを考えた食事制限が重要です。
- 運動療法: 定期的な運動により、インスリンの効きがよくなります。
- 薬物療法: 血糖値の管理が難しい場合、血糖降下薬やインスリン注射が用いられます。
当院での治療
当院では境界型糖尿病の状態の患者さんを含め、管理栄養士による栄養指導、看護師による運動の指導などを行います。しかし、そうした生活習慣の改善を図っても血糖値の管理が難しく、将来の合併症発症の危険が高い場合、内服治療(薬物療法)を開始します。
内服治療は基本的に糖尿病ガイドラインに従って薬の選択を行いますが、当院で多い心不全や腎機能低下を合併している方には心臓や腎臓の機能回復効果のあるSGLT2阻害薬を積極的に使用します。また肥満があり減量がなかなかできない方には体重減少に有効なGLP-1受動態作動薬や注射薬である「マンジャロ」なども積極的に使用しています。
糖尿病の患者さんは動脈硬化の進展や合併症の発生、ガンの発症などのリスクもあがるため、血圧や脂質の管理を行うとともに、他院とも連携し定期的に必要な検査を施行します。
糖尿病の方が将来発症する危険の高い合併症
糖尿病では、血糖管理が不十分な場合や長期間の高血糖が続くと、さまざまな合併症を発症するリスクがあります。これらの合併症は「細小血管障害」と「大血管障害」に大きく分けられ、特に「細小血管障害」の3つは「3大合併症」として知られています。合併症にならないためにも早めの治療・管理が重要です。
1.糖尿病性細小血管障害(3大合併症)
細い血管(細小血管)がダメージを受けることで起こる合併症で、次のようなものがあります。
(1) 糖尿病性網膜症
- 概要: 眼の網膜にある血管が障害を受け、視力の低下や最悪の場合には失明に至る可能性があります。
- 症状: 初期には自覚症状がほとんどないため、進行してから気付くことが多いです。視力低下、視界がぼやける、黒い影が見える(飛蚊症)などが出てきます。
- 対策: 定期的な眼科検診が重要で、治療にはレーザー療法や手術が行われる場合もあります。
(2) 糖尿病性腎症
- 概要: 腎臓の機能が低下し、重症化すると腎不全に至り、最終的には透析が必要になることもあります。
- 症状: 初期は自覚症状がほとんどありませんが、進行すると尿に蛋白が出る「蛋白尿」や、むくみ、高血圧などが現れることがあります。
- 対策: 定期的な尿検査と腎機能検査が推奨され、食事療法や血圧管理が重要です。
(3) 糖尿病性神経障害
- 概要: 手足の末端の神経がダメージを受け、しびれや痛み、感覚鈍麻が生じるほか、自律神経障害を引き起こすこともあります。
- 症状: 初期は手足のしびれや感覚の鈍さ、痛みを感じます。進行すると、立ちくらみや便秘、下痢、排尿障害など自律神経に関わる症状が出ることもあります。
- 対策: 定期的な神経検査や、症状の管理が行われ、場合によっては鎮痛薬などが処方されます。
2.糖尿病性大血管障害
大血管(動脈などの大きな血管)がダメージを受け、動脈硬化が進行することで起こる合併症、次のようなものがあります。
(1) 冠動脈疾患(心筋梗塞や狭心症)
- 高血糖が長期間続くことで動脈硬化が進行し、心臓の冠動脈に血栓が生じると、心筋梗塞や狭心症を発症するリスクが高まります。
(2) 脳血管障害(脳梗塞や脳出血)
- 脳の血管にも動脈硬化が進み、脳梗塞や脳出血のリスクが増加します。特に高血圧を伴う糖尿病患者は、脳卒中のリスクが上がります。
(3) 末梢動脈疾患(PAD)
- 足や手の血管が詰まり、血行不良が生じます。進行すると「糖尿病性壊疽(えそ)」と呼ばれる組織の壊死が生じ、最悪の場合には切断が必要になることもあります。