血管疾患
血管の病気
血管には動脈と静脈があります。一般的に病気として注意しなくてはならないのは
- 大動脈の病気
- 末梢の動脈の病気
- 静脈の病気
に分かれます。病気の種類が多いため、ここでは一般的に注意が必要な病気について説明します。
1.大動脈の病気
大動脈とは心臓からでる太い血管、主に胸部と腹部の大動脈をさします。この部分の病気として重要なのは下記の2つです。
1)大動脈瘤
大動脈の壁が動脈硬化等により脆弱となり、大動脈が正常よりも太くなる病気です。最悪の場合には破裂して大出血を生じ、命の危険を生ずることになりますが、それまでは全く自覚症状がないことが普通です。
診断方法:健診での胸部レントゲン写真や腹部の超音波検査などで疾患を疑い、正確な診断のためには造影剤を使用したCT検査などを行う必要があります。
治療方法:
- お薬での治療:一般的には血管の太さにより破裂の危険性について判断します。破裂の危険がほとんどない状態では、さらに太くならないように高血圧や脂質異常症等の治療を行います。
- 外科的治療:血管の径が破裂の危険が高い状態に至っている場合には、動脈瘤を人工血管に交換する手術や、カテーテルを使用してステントグラフトという人工の血管を動脈瘤の内部に留置する治療を行います。どちらの治療を行うかは、大動脈瘤がある位置や年齢など手術のリスク等によって選択します。
2)大動脈解離
大動脈壁の内膜が裂け、血液が壁の層の間に侵入して剥離を引き起こすことにより生じます。突然の激しい背部痛や胸痛、腹痛などの症状を生じます。生命の危険を生ずる場合が多く、緊急での治療が必要であり、必ず入院での検査、治療が必要です。
2.末梢動脈の病気
下肢に流れる動脈の内部が動脈硬化の進行によって狭くなったり、閉塞したりすることによって生ずる病気です。
症状:一定の距離を歩くと、ふくらはぎの痛みなどを生じて歩けなくなる、少し休むとまた歩くことができる「間欠性跛行(かんけつせいはこう)」が最も典型的な症状です。この症状は脊柱管狭窄症で生ずることもあるため、このような症状がある場合、一度血管の検査を行うことをお勧めします。
診断方法:両上肢と両下肢の血圧を同時測定して、下肢の血流の低下を確認する検査を当院で行います。この結果、この病気が疑われる場合には、造影剤を使用したCT検査などを行うことにより、どの部位にどの程度の病気があるかを診断します。
治療方法:病気の状態によって、お薬での治療、カテーテルを用いた治療などを選択します。
3.静脈の病気
1)下肢静脈瘤
下肢の静脈が拡張し、蛇行したり膨らんだりする病気です。血液が心臓に戻るための静脈の弁が正常に働かなくなることで起こり、特に女性や長時間立ち仕事をする人に多く見られます。
下腿の表面の静脈が膨らみ、太い青紫色や緑色の蛇行した血管が浮き出る状態になります。
すべてに治療が必要ではありませんが、自覚症状がある場合には弾性ストッキングの使用を、痛みや皮膚の色素沈着等の症状を生ずる場合には弁の壊れた静脈を閉塞させるカテーテル治療などを行います。
2)深部静脈血栓症
体の深部にある静脈内に血栓(血液の塊)が形成される病気です。特に脚の静脈で発生することが多く、適切に治療しないと命に関わる合併症を引き起こす可能性があります。
症状:無症状であることもありますが、典型的な症状としては以下のようなものがあります。
- 片側の足やふくらはぎが腫れる(左右差が明らか)。
- ふくらはぎや太ももに痛みを感じる。
- 患部が赤くなる、または青紫色になる。
- 皮膚が熱を持つ。
診断:静脈を直接検査する超音波検査、血栓形成の診断を行う血液検査などで診断を行います。
治療方法:血栓を溶かすお薬での治療方法が一般的な治療方法です。
合併症:最も深刻な合併症は肺血栓塞栓症(PE: Pulmonary Embolism)です。下肢の静脈の血栓が流れて、心臓を通って、肺の血管を塞ぐことで起こります。症状として、急な呼吸困難、胸痛、脈拍の増加、血痰などを生じます。肺血栓塞栓症は生命に関わる緊急事態で、早急な治療が必要です。