脂質異常症
脂質異常症とは
脂質異常症(ししついじょうしょう)とは血液中の脂質(主にコレステロールや中性脂肪)の濃度が正常範囲を超えて異常に高い場合、善玉であるHDLコレステロールでは異常に低くなった状態を指します。脂質異常症は、自覚症状がほとんどなくご自身の症状から見つけることは難しいですが、動脈硬化の進行により心血管疾患(心筋梗塞や脳卒中など)を発症するリスクが高くなるため、健康診断などで見つかったら適切に対処する必要があります。
診断
脂質異常症は、血液検査によって診断されます。診断基準は、以下の脂質成分の値が基準範囲を超えた場合です。
1.LDLコレステロール(悪玉コレステロール)
- 一般的な健診では120 mg/dL以上を異常値している場合が多いが、年齢や他のリスク因子と合わせて異常であるかどうかを判断する必要がある。
- LDLが高いと動脈の壁にコレステロールが沈着しやすく、動脈硬化のリスクが高まる。
2.HDLコレステロール(善玉コレステロール)
- 通常は40 mg/dL以上が望ましい。
- HDLが低いと、コレステロールを肝臓に運び戻す能力が低下し、心血管疾患のリスクが増す。
3.中性脂肪(トリグリセリド)
- 通常は150 mg/dL未満が正常値。食事摂取からの時間の経過で変化が大きく、できれば空腹時の測定が望ましい。
- 中性脂肪が高いと、膵炎や肝疾患のリスクも増加する。
4.総コレステロール
- 総コレステロール値の目安は200 mg/dL未満が一般的な基準だが、LDLコレステロール、HDLコレステロールともう一つのコレステロール(通常直接測定ができないコレステロール)の合計値であらわされるため、あまり診断的な意味はない。
当院での診断
ほとんどの方は健康診断等で異常値を指摘され受診されることと思います。健康診断の実施から時間が経過している場合には当日再度、血液検査を行わせていただきます。また、簡便な動脈硬化の検査であるPWV検査(左右上肢と下肢の血圧を同時に測定する検査。当院では無料で行っています)を行い、その結果や、年齢、喫煙、糖尿病の有無など他因子から動脈硬化のリスクを判定する「吹田スコア」などを用いて治療方法を検討しています。
また、血液検査やPWV検査によって動脈硬化の進行が疑われる場合には、実際の動脈硬化を画像診断するため頸動脈の壁の肥厚や内腔の狭窄の程度を超音波で診断する頸動脈エコー検査を行い、薬物治療の必要性について検討します。
当院での治療
1.生活習慣の改善
脂質異常症の治療には、生活習慣の改善と薬物療法を用います。検査結果等により管理栄養士または看護師からの栄養指導と運動の指導を行います。
動脈硬化がまだ軽度で内服治療の必要の無い方は、一旦当院での診療は終了し、次回の健康診断等での経過観察をお願いしています。
2.高LDLコレステロールの方に対する薬物療法
生活習慣の改善だけでは不十分な場合、またすでに頸動脈エコー検査等にて動脈硬化の進行が認められる場合には、薬物療法を行います。一般的には下記のスタチン系薬剤を使用し、スタチン系が副作用等で使用できない場合、あるいはスタチン系では治療効果が不十分な場合、エゼチミブへの変更あるいは追加を行います。
- スタチン系薬剤: LDLコレステロールを低下させ、動脈硬化の予防に効果的。
- エゼチミブ: コレステロールの腸からの吸収を抑える薬。
- PCSK9阻害薬: 主に高リスク患者に対して用いられる新しい治療法で、LDLコレステロールを劇的に減少させる。かなり高価な薬剤であり、当院では現在使用している患者さんはいません。
3.高中性脂肪の方に対する薬物療法
中性脂肪(トリグリセリド)が高値の場合、食事や運動による生活習慣の改善がまず推奨されますが、効果が不十分な場合や、中性脂肪が非常に高い場合には薬物治療を検討します。
4.当院での治療のスケジュール
薬剤治療開始から1か月後に血液検査を行い、LDLコレステロールの低下の程度、副作用の有無を診断します。検査結果が異常なく、また高血圧等ほかのリスク因子もない場合には、現在保険診療で薬剤を投与できる最長期間は91日であるため、91日毎に受診していただき、血液検査にて脂質異常の治療の状態と内服薬による副作用の有無などを確認します。また1年に1回PWV検査(無料)、1~2年に1回程度頸部動脈のエコー検査で動脈硬化の進行の有無などを検査します。