心臓病
心臓に関わる疾患には様々な種類があります。ここでは代表的な5つの疾患、心不全、狭心症、心筋梗塞、心臓弁脈症、心筋疾患について詳しく説明します。
1. 心不全
心不全(しんふぜん)は、心臓の機能が低下し、十分な血液を体全体に送り出すことができなくなる病気です。心臓のポンプ機能がうまく働かないことによって、体の各部に必要な酸素や栄養が届きにくくなり、さまざまな症状が現れます。
1)心不全の原因
さまざまな病気が心臓の機能を低下させる原因になります。主な原因には以下のような病気があります。
- 高血圧症
- 心筋梗塞
- 心臓弁膜症
- 心筋症
- 糖尿病や腎臓病などの慢性疾患
2)心不全の症状
心不全の症状は、心臓の機能が悪化することに伴い、さまざまな形で現れます。主な症状としては以下があります。
- 息切れ:
- 初期の段階では労作時(階段を上るなど)に息切れを自覚するようになりますが、状態が悪化すると安静時や寝ているときにも呼吸の苦しさを感じるようになります。
- むくみ(浮腫):
- 足、足首、足の甲、腹部などにむくみが現れることがあります。心臓が十分に血液を送り出せないため、体内に余分な水分がたまり、むくみが発生します。
- 疲れやすい、体力の低下:
- 体が必要な血液を十分に受け取れないため、疲れやすくなることがあります。
- 夜間頻尿:
- 夜間にトイレに頻繁に行くことがあります。これは、日中下半身にたまってしまった水分が、横になると血液が下半身から心臓に戻りやすくなるためです。
- 咳や痰が出る:
- 心不全が進行すると、肺に液体がたまり、咳や呼吸困難を引き起こすようになります。特に横になると症状が悪化するようになります。
3)心不全の診断方法
心不全は、患者さんの症状、医師の診察、胸のレントゲン写真、血液検査などで最初の診断を行います。さらに精密検査として、原因となった心臓の病気を診断するために心臓超音波検査(心エコー検査)などを行います。
4)心不全の治療方法
心不全の原因疾患にもよりますが、基本的には心不全を改善させるためのお薬での治療、塩分制限や適切な運動などの生活習慣の改善の指導などを行います。ここ数年、お薬にも進歩があり、治療効果は改善されてきています。
また原因疾患によっては、手術などの治療が必要となることもありますので、それらが必要な場合には佐久医療センターなどの高度医療機関にご紹介致します。
2. 狭心症
狭心症(きょうしんしょう)は、心臓の筋肉に血液を供給している血管である冠動脈(冠状動脈)が狭くなり、心臓の筋肉に十分な酸素や栄養が届かなくなることで引き起こされる病気です。
1)狭心症の種類
労作性狭心症
- 冠動脈が動脈硬化などで狭くなり、心臓の筋肉細胞への血流が一時的に不足することで起きる病気です。
- 症状としては、心臓に負担がかかる強い労作(走る、階段を登る、重い荷物を持ち上げるなど)の際に数分程度、胸全体が締め付けられたり、押さえつけられるような胸痛が起こります。休息や安静にすると症状が改善します。
冠れん縮性狭心症(かんれんしゅくせいきょうしんしょう)
- 冠動脈が一時的に痙攣(けいれん)で収縮し、血流が急激に減少することによって起こります。
- 症状:安静時や夜間に発症することが多く、突然胸痛を感じることがあります。痛みは数分で収まることが一般的ですが、反復する場合があります。
2)狭心症の診断
患者さんの症状をお聞きすることでおおむね診断することができますが、狭心症の場合、症状のない時には心電図などで変化を見つけられないため、一般的な検査で診断することができません。そのためそれぞれ以下のように診断を行います。
- 労作性狭心症:冠動脈そのものの状態を診断するCT検査や、患者さんに運動をしていただいて心電図をとる負荷心電図検査などが一般的な診断方法となります。また、正確な診断のためには冠動脈に造影剤を注入するカテーテル検査が必要です。
- 冠れん縮性狭心症:カテーテル検査以外には正確な診断をすることが困難である場合が多いですが、一般的には患者さんの症状をお聞きすることで診断を行い、内服治療で症状の改善効果をみることで診断を行っています。
3)狭心症の治療
- 労作性狭心症:病院での治療として、カテーテル検査で冠動脈の狭窄部位が見つかった場合、狭い部分をカテーテルで広げる治療が一般的に行われます。しかし、大切なのはその後、再発させないための治療を継続的に行っていくことです。
基本的に動脈硬化がこの病気の原因であるため、高血圧や脂質異常症など原因となっている病気の治療、禁煙や食生活、運動など生活習慣の改善がとても大切です。狭心症は進行すると、以下の心筋梗塞や心臓弁脈症などになるリスクが高いため、長期間にわたる継続的な生活習慣の改善が必要です。当院ではそのための治療・アドバイスをチームで行っています。
- 冠れん縮性狭心症:冠動脈のけいれんを抑制するお薬を使用することが基本的な治療方法です。患者さんの胸痛の消失を確認しながら、内服治療の継続を行います。
3. 心筋梗塞
狭心症と同じ原因で、心臓の筋肉に血液を流している冠動脈が閉塞することにより、心臓の筋肉が壊死してしまう状態が心筋梗塞です。狭心症の痛みは数分間で改善しますが、心筋梗塞では強い痛みが持続し、冷や汗などを生ずることもあります。
心筋梗塞では時間の経過とともに心臓の壊死部分が進行し、また心停止を生ずるような危険な不整脈を発生することもあるため、一刻を争う治療が必要です。心筋梗塞を疑う症状を生じた場合には躊躇なく救急車を要請することが必要です。
病院への入院後はなるべく早くカテーテル検査を行い、診断を行うとともに、閉塞部位を再開通させる治療を行います。
心筋梗塞発症後、慢性期の治療
入院治療が終了した後は、狭心症と同様、再度の病気を生じさせない治療が必要です。また、心筋梗塞では心臓の収縮の低下による心不全を生ずることもあり、こちらに対しても治療は必要な場合があります。
心筋梗塞を生じてしまった部位を元に戻すことはできませんが、再発をさせなければ一生大きな問題を生ずることなく生活が可能です。そのためのお手伝いを私たちはいたします。
4. 心臓弁膜症
心臓弁膜症(しんぞうべんまくしょう)心臓の中の部屋の入り口と出口にある心臓弁が正常に機能しなくなる病気です。心臓の弁は、血液が心臓の各部屋を順番に流れるのを助ける役割を果たします。正常な弁は、血液が逆流したり、十分に流れなかったりしないように、開閉を正確に行います。しかし、弁がうまく機能しないと、血流に問題が生じ、徐々に心臓に負担がかかる状態となり、悪化する場合には心不全を生ずるようになります。
1)心臓弁膜症の原因
弁膜症になる方のもっとも多くの原因は加齢です。特に大動脈弁が硬く狭くなる大動脈弁狭窄症や、僧帽弁の閉鎖が不十分となる僧帽弁閉鎖不全症が増加しています。また数は少ないですが、最近の感染に伴うものや、先天性のもの、数十年前は原因として最多であったリウマチ熱などが弁膜症を引き起こします。
2)心臓弁膜症の症状
初期の段階では、ほとんどの方が無症状で生活上困ることはありません。多くの方は、長い期間徐々に心臓への負担が増加し、心不全を生ずるようになります。心不全を生ずると上記に記載した心不全症状を生ずるようになります。
3)心臓弁膜症の診断
症状のない状態で心臓弁膜症を見つける第一歩は医師の聴診です。弁膜症は心臓の拍動に合わせて血液の逆流や乱流などにより心雑音を生じますので、それを聞き分ける医師の耳が必要です。
次いで、どの心臓弁にどのような異常があるかを診断するために心臓超音波検査を施行することになります。この検査により弁膜症の重症度や心臓への負担の程度を診断することができます。また、心臓弁膜症に起因する心不全の程度の診断には血液検査も行います。
もし、これらの結果、外科的治療が必要と判断される場合には、入院でのカテーテル検査などの精密検査を行うことになります。
心臓弁膜症の治療
初期の心臓弁膜症で心臓への負担が軽微な場合には、特別な治療は必要ありません。しかし、弁膜症は自然に改善することはないため、6~12ヶ月間隔での心臓超音波検査等での経過観察が必要です。心臓弁膜症の病状の進行は特別な場合を除き、ゆっくりですので、定期的に診察に通っていれば、心配して過ごされる必要はありません。
心臓弁膜症の進行により心不全の症状を生ずるようになった場合には、心不全を改善させるためのお薬の治療を開始します。また、心不全症状は軽微でも弁膜症の状態が高度な場合には、心臓の負担を減らして心臓の機能を維持できるようお薬を使用することもあります。
その後、心臓への負担が高度となり心不全が進行するような状況では、開胸での外科的手術や、最近ではカテーテルと用いた治療を検討することになります。
5. 心筋疾患
心筋疾患は、心筋自体が損傷を受けて、心臓のポンプ機能が低下する疾患です。代表的な疾患は心筋症や心筋炎です。
- 心筋症(しんきんしょう):心筋が異常に厚くなったり、拡張したりして、正常に機能しなくなる病気です。これには、拡張型心筋症(心筋が薄くなり、拡張する)、肥大型心筋症(心筋が肥厚して、血液を効率よく送り出せなくなる)などがあります。
- 心筋炎(しんきんえん):ウイルスや細菌などによって引き起こされる心筋の炎症です。感染症によるもので、急性期に症状が現れ、重症化すると心不全を引き起こすことがあります。
1)心筋症の診断
拡張型心筋症では強い心不全症状を発症することもありますが、多くの心筋症は健康診断の心電図や胸のレントゲン検査で異常を指摘されることが多い疾患です。
当院では心電図やレントゲン検査の後、心臓超音波検査を施行して心臓の筋肉の厚さや心臓の収縮の程度などを見ることで、おおむねの病気の診断をすることができます。
その結果、さらなる精密検査が必要な場合には佐久医療センター等に紹介いたします。
2)心筋症の治療
拡張型心筋症では心不全を合併していることが多く、内服での治療が主となります。肥大型心筋症では、病気の状態により治療がすぐに必要とはならない場合もありますが、定期的な観察が必要です。
3)心筋炎の診断と治療
心筋炎はめずらしい病気ですが、風邪症状のあとに強い心不全症状(息の苦しさなど)を合併することにより病院を受診し、診断されることがほとんどです。診断には胸のレントゲン写真、心電図、心臓超音波検査、血液検査などが必要です。心不全が強い場合には入院での治療を要することもあり、この場合佐久医療センター等に紹介致します。